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大阪地方裁判所 昭和62年(行ウ)60号 判決

原告

永大産業株式会社

右代表者代表取締役

東尾禮二

右訴訟代理人弁護士

三宅一夫

坂本秀文

長谷川宅司

千森秀郎

田中浩三

被告

住吉税務署長

太田敬紀

右指定代理人

石田浩二

外四名

主文

一  被告が、原告に対し、昭和六〇年一二月二五日付で、原告の昭和五七年五月一日から同年九月三〇日までの事業年度の法人税についてした、翌期繰越欠損金の申告額一七三億六五三四万八一〇二円を〇円とした更正処分中、同欠損金額一〇六億六一四六万四六四三円に達するまでの部分を取消す。

二  被告が、原告に対し、昭和六〇年一二月二五日付で、原告の昭和五七年一〇月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度の法人税についてした、翌期繰越欠損金の申告額一七三億七六三〇万九五二〇円を一五八七万八七〇四円とした更正処分中、右欠損金額一五八七万八七〇四円を超え、一〇六億七七三四万三三四七円に達するまでの部分を取消す。

三  被告が、原告に対し、昭和六二年三月三一日付で、原告の昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの事業年度の法人税についてした、翌期繰越欠損金の申告額一八三億八三四三万五〇二五円を九億三二八七万四〇七四円とした更正処分中、右欠損金額九億三二八七万四〇七四円を超え、一一五億九四三三万八七一七円に達するまでの部分を取消す。

四  被告が、原告に対し、昭和六二年三月三一日付で、原告の昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度の法人税についてした、翌期繰越欠損金の申告額一八六億九九八三万六九八四円を一二億一八七八万七六九六円とした更正処分中、右欠損金額一二億一八七八万七六九六円を超え、一一八億八〇二五万二三三九円に達するまでの部分を取消す。

五  被告が、原告に対し、昭和六二年三月三一日付で、原告の昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度の法人税についてした、翌期繰越欠損金の申告額一四二億九五七五万二七三〇円を〇円とした更正処分中、右欠損金額七六億五二六五万八一七九円に達するまでの部分並びに同事業年度の法人税についてした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取消す。

六  訴訟費用はこれを三分し、その二を被告の負担とし、その一を原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告に対し、昭和六〇年一二月二五日付で、原告の昭和五七年五月一日から同年九月三〇日までの事業年度の法人税についてした、翌期繰越欠損金の申告額一七三億六五三四万八一〇二円を〇円とした更正処分中、同欠損金額の内金一七一億九五六六万一二七二円の部分を取消す。

2  被告が、原告に対し、昭和六〇年一二月二五日付で、原告の昭和五七年一〇月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度の法人税についてした、翌期繰越欠損金の申告額一七三億七六三〇万九五二〇円を一五八七万八七〇四円とした更正処分中、同欠損金額の内金一七一億九五六六万一二七二円の部分を取消す。

3  被告が、原告に対し、昭和六二年三月三一日付で、原告の昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの事業年度の法人税についてした、翌期繰越欠損金の申告額一八三億八三四三万五〇二五円を九億三二八七万四〇七四円とした更正処分中、同欠損金額の内金一七一億九五六六万一二七二円の部分を取消す。

4  被告が、原告に対し、昭和六二年三月三一日付で、原告の昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度の法人税についてした、翌期繰越欠損金の申告額一八六億九九八三万六九八四円を一二億一八七八万七六九六円とした更正処分中、同欠損金額の内金一七一億九五六六万一二七二円の部分を取消す。

5  被告が、原告に対し、昭和六二年三月三一日付で、原告の昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度の法人税についてした、翌期繰越欠損金の申告額一四二億九五七五万二七三〇円を〇円とした更正処分中、同欠損金額の内金一四一億八六八五万四八〇八円の部分並びに同年分の法人税及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取消す。

6  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する本案前の答弁

1  本件訴えのうち、請求の趣旨3ないし5項の訴えをいずれも却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求の趣旨に対する本案の答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和二一年七月に、合板の製造・販売を主たる目的として設立された会社であるが、諸般の事情により業績が悪化し、昭和五三年二月二〇日、大阪地方裁判所に対し、会社更生手続開始の申立を行い、同年五月一日、更生手続開始決定を得、昭和五七年九月三〇日、更生計画が認可された。

2  本件各処分の経緯

(一) 本件一次処分の経緯

(1) 原告は、昭和五七年五月一日から同年九月三〇日までの事業年度(以下「昭和五七年九月期」という。)及び昭和五七年一〇月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五八年三月期」という。)の青色法人税確定申告書(以下、単に「申告書」という。)に、翌期へ繰越す欠損金額を、昭和五七年九月期については一七三億六五三四万八一〇二円、昭和五八年三月期については一七三億七六三〇万九五二〇円として、それぞれ申告したところ、被告は、昭和六〇年一二月二五日付で、昭和五七年九月期の翌期へ繰越す欠損金額を〇円とする更正処分(以下「本件第一処分」という。)及び昭和五八年三月期の翌期へ繰越す欠損金額を一五八七万八七〇四円とする更正処分(以下「本件第二処分」といい、本件第一処分と合わせて「本件一次処分」という。)をした。

(2) そこで、原告は、本件第一処分については昭和六一年二月二〇日、本件第二処分については同月二四日、いずれも大阪国税局長に対し、異議申立をしたところ、同局長は、同年五月八日、いずれも異議棄却の決定をしたので、原告は、更に同年六月六日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同所長は、昭和六二年六月一六日、審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、右裁決書は、同年七月二日原告に送達された。

(二) 本件二次処分の経緯

(1) 原告は、昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五九年三月期」という。)、昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度(以下「昭和六〇年三月期」という。)及び昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度(以下「昭和六一年三月期」という。)の青色法人税確定申告(以下、単に「申告」という。)について、翌期へ繰越す欠損金額を、昭和五九年三月期については一八三億八三四三万五〇二五円、昭和六〇年三月期については一八六億九九八三万六九八四円、昭和六一年三月期については一四二億九五七五万二七三〇円として、それぞれ申告したところ、被告は、昭和六二年三月三一日付で、昭和五九年三月期の翌期へ繰越す欠損金額を九億三二八七万四〇七四円とする更正処分(以下「本件第三処分」という。)及び昭和六〇年三月期の翌期へ繰越欠損金額を一二億一八七八万七六九六円とする更正処分(以下「本件第四処分」という。)をし、また、昭和六一年三月期の翌期へ繰越す欠損金額を〇円とするとともに、同期の所得金額を三〇億八八〇万六四六四円、右更正所得金額に対する法人税額を一三億二八一万二九九八円(税額調整後の差引納付すべき法人税額は九億二五七〇万二五〇〇円)とする更正処分及び過少申告加算税九二五四万五〇〇〇円と賦課決定処分(以下、右各処分を一括して「本件第五処分」といい、本件第三処分、第四処分と合わせて「本件二次処分」という。)をした。

(2) そこで、原告は、昭和六二年五月一五日、大阪国税局長に対し、本件二次処分について異議申立をしたところ、同局長は、同年七月二八日、いずれも異議棄却の決定をした。

(3) 原告は、本件二次処分について審査請求手続を経由していないが、本件二次処分は、いずれも昭和五七年九月期の翌期へ繰越す欠損金を〇円とする本件第一処分を先行処分とする後行処分であって、本件第一処分が取消されれば、いずれも取消されなければならない密接な関係にあり、しかも、本件第一処分に関する唯一の争点は、会社更生法二六九条三項(以下、単に「本条項」という。)及び法人税法(以下、単に「法」という。)五七条一項の解釈及び適用順序についての純粋な法律問題であるところ、本件第一処分については、本件第二処分と合わせ、前記(一)の(2)のように、国税不服審判所長の裁決を経ているので、本件二次処分については、国税通則法一一五条一項三号の裁決を経ないことにつき正当な理由がある場合に当たる。

3  本件各処分の違法性

被告がした本件一次処分及び本件二次処分(以下「本件各処分」という。)は、いずれも昭和五七年九月期の翌期へ繰越す欠損金を〇円とする違法な本件第一処分に基因するものであり、いずれも違法である。

4  よって、原告は、被告に対し、本件各処分中、請求の趣旨1ないし5記載の部分の取消を求める。

二  被告の本案前の主張

1  国税に関する更正処分の取消を求める訴えは、異議申立についての決定及び審査請求についての裁決を経た後でなければ提起できないところ、本件二次処分について、原告は、審査請求をせず、その裁決を経ていないから、本件二次処分の取消を求める原告の訴えは不適法である。

2  原告は、右訴えについて、裁決を経ないことにつき、国税通則法一一五条一項三号にいう正当な理由がある旨主張するが、右主張は、以下のとおり失当である。

(一) 行政処分取消訴訟において、不服申立前置制度が置かれる趣旨は、行政庁に対し、司法審査に先立ち、当該処分の当否について反省の機会を与え、その自主的解決を期待するものであるから、その不服申立は、本来、当該処分の適否を直接対象として個別になされなければならない。国税通則法一一五条一項但書は、右のような不服申立前置制度下において、例外的な場合の救済を図るための制度であるから、不服申立をなすことが客観的にはできたにもかかわらず、不服申立をしなかった者が、同条一項三号に該当するとして救済されるためには、救済に値するだけの特別な理由がなければならないと解すべきであるところ、更正処分は、各事業年度毎に課税標準等や、税額等を確定する処分であるから、同一法人に対するものであっても事業年度を異にする各更正処分は、独立した別個の処分であって、それぞれ目的及び効果を異にするものであり、このような場合、たまたま二つの処分の基礎とされた事実関係の全部又は一部が共通であって、これに対する納税者の不服の事由も同一であるとみられるときでも、前者の処分につき不服申立を経たからといって、後者の処分について不服申立を経ないことにつき正当な理由があるとはいえないと解すべきである(最高裁昭和五七年一二月二一日判決・民集三六巻一二号二四〇九頁、最高裁昭和五九年六月二八日判決・民集三八巻八号一〇二九頁)。

(二) しかるに、本件において、原告には、本件二次処分について、不服申立手続を経ることを妨げる客観的事情が存しなかったのであり、かつ、不服申立前置を経た本件一次処分とこれを経ない本件二次処分とを比較してみると、内容的にも事業年度が異なるばかりか、処分がなされた時期も異なるのであるから、本件二次処分についても不服申立を経なければならないのであって、原告主張のような、本件一次処分と本件二次処分とが先行・後行処分として密接な関係にあるとか、本件の唯一の争点は、同一の純粋な法律問題であるというような事項は、取消訴訟を提起するに当たり、不服申立を経ないことにつき、国税通則法一一五条一項三号にいう正当な理由に当たらないことは明らかである。

三  請求原因に対する被告の本案の答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の(一)、(二)の(1)、(2)の事実は認めるが、(二)の(3)の主張は争う。

3  同3の主張は争う。

四  被告の主張

1  本件各処分に至る経緯

(一) 本件第一処分の経緯

原告の昭和五七年九月期の申告とそれに対する被告の更正処分(本件第一処分)、原告の異議申立とそれに対する異議決定、原告の審査請求とそれに対する裁決の経緯は、別表一記載のとおりである。

(二) 本件第二処分の経緯

原告の昭和五八年三月期の申告とそれに対する被告の更正処分(本件第二処分)、原告の異議申立とそれに対する異議決定、原告の審査請求とそれに対する裁決の経緯は、別表二記載のとおりである。

(三) 本件第三、第四処分の経緯

原告の昭和五九年三月期及び昭和六〇年三月期の申告とそれに対する被告の更正処分(本件第三、第四処分)、原告の異議申立とそれに対する異議決定の経緯は、別表三、四記載のとおりである。

(四) 本件第五処分の経緯

原告の昭和六一年三月期の申告とそれに対する被告の更正処分及び法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分(本件第五処分)、原告の異議申立とそれに対する異議決定の経緯は、別表五記載のとおりである。

(五) 以上、昭和五七年九月期から昭和六一年三月期(以下「係争各事業年度」という。)の原告の申告の内容及びそれに対する被告の各更正処分の内容は、別表六記載のとおりである。

2  本件第一処分の適法性

(一) 本件第一処分の内容

(1) 原告は、昭和五七年九月期の申告において、六二三億五一三六万四四二円の債務免除を受けたとして、それを益金(以下「本件債務免除益」という。)に算入するとともに、本件債務免除益を含む同期における繰越欠損金控除前の所得金額六二七億九三七〇万四四四九円のうち四二五億八九五四万六二九三円を法五七条一項に基づく欠損金(以下「青色申告欠損金」という。)の当期控除額とし、二〇二億四一五万八一五六円を、青色申告欠損金を除いた本条項に基づく欠損金の当期控除額としてそれぞれ損金に算入し、その合計六二七億九三七〇万四四四九円を当期における欠損金として控除し、その余の一七三億六五三四万八一〇二円を翌期に繰越す欠損金とする申告をした。

(2) これに対し、被告は、昭和五七年九月期における繰越欠損金控除前の所得金額のうち、五九九億五四八九万四三九五円を青色申告欠損金の当期控除額とし、その余の三〇億八四九万六八八四円を本条項に基づく欠損金の当期控除額としてそれぞれ損金に算入し、結局、本件債務免除益全額を当期における欠損金として控除し、法五七条一項により翌期に繰越すべき欠損金は認められないので、これを否認するとの更正処分(本件第一処分)を行った。

(二) 繰越控除が認められる各欠損金額について

(1) 青色申告欠損金の額について

法五七条一項は、当該「事業年度開始日前五年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額」について繰越控除を認めているところ、原告が、本件債務免除益を計上した昭和五七年九月期の事業年度開始日は、同年五月一日であるので、同期において法五七条一項に基づく繰越控除が認められる事業年度及び右各事業年度に生じた青色申告欠損金の額は、別表七記載のとおりである。

(2) 累積繰越欠損金の額について

① 本条項は、「更生手続による会社の……債務の消滅による益金で、更生手続開始前から繰越されている法二条二〇号に規定する欠損金額(同法五七条一項〈青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し〉……の適用を受けるものを除く。)に達するまでの金額は、……債務の消滅のあった各事業年度の同法による所得の金額の計算上益金の額に算入しない。」と規定しているところ、右規定における「更生手続開始前から繰越されている法二条二〇号に定める欠損金額」(以下「累積繰越欠損金」という。)とは、法施行規則三四条二項に定める申告書添付の別表四(以下「申告書別表四」という。)の①欄記載の欠損金額(当該期のみの欠損金額)をいうのか、あるいは同条項に定める申告書添付の別表五(一)(以下「申告書別表五(一)」という。)の⑤欄記載の欠損金額(当該期までに繰越された欠損金額)をいうのかが問題となるが、法二条二〇号に規定する欠損金額とは、「当該事業年度の損金の額が当該事業年度の益金の額をこえる場合におけるそのこえる部分の金額」であるから、それは申告書別表四の①欄記載の欠損金額であり、したがって累積繰越欠損金の額は、各事業年度の申告書別表四の①欄記載の欠損金額で、会社の設立一期から会社更生手続開始決定時に終了する事業年度までに繰越されている金額を指すことになる。

② しかしながら、会社設立一期から会社更生手続開始決定時に終了する事業年度までの欠損金額及びそのうち繰越されている部分の金額を確定することは事実上困難であるところから、法人税基本通達(以下、単に「基本通達」という。)一四―三―一の五は、会社更生手続開始時に終了する事業年度の申告書別表五(一)の⑤欄に記載されるべき欠損金額をもって、累積繰越欠損金の額と事実上推定することとしており、本件では、昭和五三年一月一日から同年四月三〇日までの事業年度(以下「昭和五三年四月期」という。)の申告書別表五(一)の⑤欄の差引合計額が、本件の累積繰越欠損金(以下「本件累積欠損金」という。)の額となる。

③ ところが、本件で、昭和五三年四月期の申告書別表五(一)が、保存期間満了のため見当たらず、その⑤欄を直接知ることはできないが、申告書別表五(一)の⑤欄は、翌期の申告書別表五(一)の①欄にそのまま書き移すものであるから、昭和五三年四月期の申告書別表五(一)の⑤欄は、その翌期である昭和五三年五月一日から昭和五四年四月三〇日までの事業年度(以下「昭和五四年四月期」という。)の別表五(一)の①欄に等しいこととなり、原告の昭和五四年四月期の申告書別表五(一)の①欄の差引合計額であるマイナス三三五億一五七七万六〇七八円が、原告の昭和五三年四月期の申告書別表五(一)の⑤欄の差引合計額となり、右金額が、本件累積繰越欠損金の額となる。

④ また、本件累積繰越欠損金のうち、法の適用を受ける青色申告欠損金以外の欠損金で本条項による繰越控除が認められる欠損金(以下「会社更生欠損金」という。)の額は、前記三三五億一五七七万六〇七八円から、昭和五三年四月期の欠損金額一九八億四五八一万四五五一円を差引いた一三六億六九九六万一五二七円である。

(三) 各欠損金額の繰越控除の順序について

(1) 課税実務の取扱について

基本通達一四―三―一の六においては、法五七条一項と本条項との適用関係(青色申告欠損金等の控除の順序)について、「会社更生法二六九条三項(債務免除益等の課税の特例)の規定は、更生会社における欠損金額の繰越控除について特例を定めたものであるから、更生会社につき同項の規定を適用する場合において、財産の評価換え又は債務の消滅による益金の生じた日の属する事業年度に繰越された既往の欠損金額のうちに、更生手続開始前から繰越されたものと更生手続開始後に生じたものとがあるときは、当該欠損金額は、同項の規定及び法五七条一項又は五八条一項(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し等)の規定を適用しないものとして計算した場合における当該事業年度の所得の金額の範囲内で、①更生手続開始前から繰越された欠損金額のうち法五七条一項又は五八条一項の規定の適用がある部分の金額、②更生手続開始後に生じた欠損金額のうちこれらの項の規定の適用がある部分の金額、③更生手続開始前から繰越された欠損金額のうち①に掲げる金額以外の金額の順序に従って損金の額に算入する」と定められ、課税実務ではこれによる取扱がなされているところ、右取扱は、以下のように、法五七条一項と本条項の合理的な解釈に基づくものである。

(2) 欠損金の繰越控除の順序について

① 本条項の趣旨は、更生会社が、法五七条、五八条による繰越控除の適用を受ければ、評価益や債務免除益が計上されても、必ずしもすべて課税対象になるわけではないが、累積繰越欠損金の中には、右の繰越控除の適用のないものもあることから、これらの欠損金があっても、評価益や債務免除益に課税されて税負担が重くなり、更生が妨げられるおそれもあるので、法五七条、五八条の規定による繰越控除のみによっては、累積欠損金を控除し切れない場合に、本来課税対象となる評価益や債務免除益について、特にこれを累積欠損金の範囲内を限度として課税対象から除外するというところにある。

② 右①のような本条項の趣旨からすれば、会社更生手続中の会社(以下「更生会社」という。)の累積繰越欠損金が、(イ)更生手続開始前に発生した青色申告欠損金(以下「開始前青色申告欠損金」という。)と、(ロ)更生手続開始後に発生した青色申告欠損金(以下「開始後青色申告欠損金」という。)と、(ハ)それ以外の欠損金(会社更生欠損金)とから構成されている場合における控除の順序は、(イ)、(ロ)、(ハ)の順によるべきことが明らかである。なお、仮に、右(ハ)の欠損金を他に先立って損金に算入するとすれば、右(イ)、(ロ)の損金算入により評価益及び債務免除益につき課税関係が生じない場合にまで、右条項の適用を許容することになってしまい、これは右条項の立法趣旨に明らかに反する。

③ 本条項は、累積繰越欠損金の範囲内で、更生手続に伴う評価益及び債務免除益を課税対象としない趣旨の規定であるが、法五九条(資産整理に伴う私財提供等があった場合の欠損金の損金算入)も、同様に「累積欠損金の範囲内で私財提供等に伴う益金を課税対象にしない」旨を定めているところ、法施行令一一八条は、同条にいう累積欠損金には、「法五七条、五八条の規定により適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される欠損金額は含まれない」旨を定め、法五七条、五八条の規定の適用がある欠損金を優先し、残額があれば、その後にその余の欠損金の繰越控除を行うべきことを明らかにしているのであって、法五九条の規定による欠損金の繰越控除の順序と本条項による欠損金の繰越控除の順序とを別異に取扱うことの合理性は見いだしがたい。なお、法施行令一一七条は、法五九条の適用対象となる事実として、商法の規定による整理開始命令、破産法の規定による破産宣告、和議法の規定による和議の開始決定及びこれに準ずる事実を掲げるとともに、本条項の適用に係る事実を除外する旨規定しているが(同条四号)、その除外理由は、本条項において、法の特例として債務免除益及び評価益のうち欠損金額に達するまでの金額については課税しないこととされていることによるものであり、このことは、法五九条と本条項が、その趣旨、目的、適用範囲が同一のものとして立法されたことの証左である。したがって、本条項も、法五九条と同様に、まず法五七条、五八条の規定の適用がある欠損金を控除し、なお残額があれば、その後にその余の欠損金の控除を行うと解すべきであり、これが租税公平負担の原則に合致したものである。

(四) 本件累積繰越欠損金の控除について

前記(三)の順序に従い、本件債務免除益を含む昭和五七年九月期における繰越欠損金控除前の所得金額から本件累積繰越欠損金を控除すると、同期において青色申告欠損金の繰越控除が認められる別表七記載の各事業年度のうち、(イ)開始前青色申告欠損金は、同表記載の昭和五三年四月期の一九八億四五八一万四五五一円であり、(ロ)開始後青色申告欠損金は、同表記載の昭和五四年四月期、昭和五五年五月一日から昭和五六年四月三〇日までの事業年度(以下「昭和五六年四月期」という。)及び昭和五六年五月一日から昭和五七年四月三〇日までの事業年度(以下「昭和五七年四月期」という。)の各欠損金額の合計額である四〇一億九〇七万九八四四円であるから、(ハ)本件において繰越が認められる会社更生欠損金は、その限度額である前記一三六億六九九六万一五二七円のうち、昭和五七年九月期における繰越欠損金控除前の所得金額六二九億六三三九万一二七九円から、右(イ)、(ロ)の青色申告欠損金合計五九九億五四八九万四三九五円を差引いた三〇億八四九万六八八四円である。

(五) したがって、昭和五七年九月期において、法五七条一項による翌期に繰越すべき欠損金は認められないから、これを〇円とした本件第一処分は適法である。

3  原告が本件各処分を違法とする理由は、いずれも昭和五七年九月期の翌期繰越欠損金に基因する翌期繰越欠損金の計上に関するものであるところ、昭和五七年九月期の翌期繰越欠損金が認められない以上、その余の原告の主張はいずれも理由がなく、本件各処分は適法である。

五  被告の本案前の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の本案前の主張は争う。

2  本件二次処分について、審査請求を経由しないことについては、以下のとおり、国税通則法一一五条一項三号の「正当な理由」がある。

(一) 行政処分の取消訴訟を提起するにつき、不服申立前置が要求されるのは、行政処分に対する司法審査をする前に、当該行政処分の当否につき、行政庁に反省の機会を与え、その自主的解決を期待し、これにより行政庁による専門知識を利用した大量の紛争の迅速な解決を図ることにあるが、憲法上の裁判を受ける権利等の原則からすれば、右不服申立前置は、例外的な制度であり、絶対的なものではあり得ず、不服申立人の利益との相関関係や、制度の趣旨からみて、不服申立前置を要求することが適当でない場合には、不服申立前置を要することなく、裁判所への訴訟提起が認められるべきであり、これが国税通則法一一五条一項但書の趣旨である。

(二) 右のような国税通則法一一五条但書の趣旨からすれば、先行の関連処分につき、既に後行の関連処分と共通の争点が不服申立審査の対象となっていて、行政庁の合理的判断として、当該争点につき異なる判断があり得ない場合には、後行の関連処分に対する取消訴訟につき不服申立前置を経ないことにつき、同条三号に定める「その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」に当たるというべきである。けだし、共通の争点が既に実質的に不服審査の対象となっていて異なる判断があり得ない事情がある場合に、重ねてそれを不服審査の対象とすることは制度の趣旨からみて全く無駄であるばかりでなく、紛争の迅速な解決を図る制度の趣旨に反し、かつ不服申立人の迅速な救済を求める利益にも反するからである。

(三) そこで、右(二)のような観点から、本件各処分について、処分相互の、密接関連性、争点の共通性、争点についての判断の変更可能性を検討する。

(1) 本件各処分の密接関連性

本訴請求は、係争各事業年度の繰越欠損金に関する被告の認定処分の是非を問うものであるところ、右繰越欠損金の認定処分は、ある年度の繰越欠損金の額が決定されば、その認定額が、法令に規定する範囲内で、連続する次年度以降に繰越され、その年度の繰越欠損金に機械的に加算されるのであり、ある年度の繰越欠損金の認定処分を変更すれば、法令の定める範囲内で次年度以降の繰越欠損金の確定額の変更を法律上余儀なくされるのであるから、各年度の繰越欠損金の認定処分に関する更正処分は、法令の定める年度を限度として、他の年度の繰越欠損金の認定処分に関する更正処分と極めて密接な関連性を有するものである。

(2) 争点の共通性

原告は、形式的には、係争各事業年度についての本件各処分を争っているが、実質的には昭和五七年九月期についての本件第一処分を争っているに過ぎないのであり、前記(一)のような特殊性から、本件第一処分の瑕疵を内包し、それを承継する本件各処分を争っているのである。したがって、本件各処分についての争点も昭和五七年九月期の繰越欠損金を〇円としたことが会社更生法及び法の解釈に反するものか否かという共通のものである。

(3) 判断の変更可能性

原告は、本件一次処分のうち、繰越欠損金の認定処分に関わる部分については、異議申立を経た後、大阪国税不服審判所長あてに審査請求の申立を行っているところ、右審査請求は、大阪国税不服審判所から東京の国税不服審判所本庁に回付された上で裁決がなされており、しかもそこでの争点は、前記(2)のような法律解釈上の問題であり、不服申立について、国税不服審判所が異なる判断をなす合理的可能性は全くないというべきである。

(4) 右(1)ないし(3)のとおり、本件二次処分については、既に関連する本件一次処分が、共通の争点について判断を経ており、判断の変更可能性がないから、不服申立前置を経ないことにつき、正当の理由があることが明らかである。

(四) また、本件では、紛争の迅速な解決を図り、著しい損害を避ける必要もあって、本訴請求をなしている点も「正当な理由」を基礎付ける事情として考慮されなければならない。すなわち、原告は、本件第五処分により、昭和六一年三月期の法人税額を一三億二八一万二九九八円と計算されたものであるところ、本件一次処分について、審査請求から裁決までの期間は一年以上であり、本件第五処分についても同様な経過を経るならば、仮に法人税額を直ちに納付して、延滞税額を避けたとしても、調達をする必要のない右法人税額について、他から借入を行い、あるいは有効に事業に使用できる資金固定の金利負担を受忍しなければならないことになり、右負担金利を民法所定の年五分で計算しても六五〇〇万円以上となる。

(五) また、原告は、本件二次処分についても、異議申立をして、司法審査の前に行政庁に反省の機会を与え、自主的解決を図る場を設けたことも「正当な理由」を基礎付ける一事情として考慮されるべきである。

六  被告の本案の主張に対する認否

1  被告の本案の主張1の事実は認める。

2(一)  同2の(一)の事実は認める。

(二)  同2の(二)の(1)の事実並びに(2)の①の事実及び主張は認めるが、(2)の②ないし④の主張は争う。

(三)  同2の(三)ないし(五)の主張は争う。

3  同3の主張は争う。

七  被告の本案の主張に対する反論

1  会社更生欠損金の額について

(一) 本条項の「更生手続開始前から繰越されている」欠損金(会社更生欠損金)とは、各事業年度の申告書別表四の①欄記載の金額で、会社の設立一期から会社更生手続開始決定時に終了する事業年度までに繰越されている金額をいうことは明らかであり、被告もこれを認めるところであるが、それを申告書別表五(一)の⑤欄記載の金額に限定する法的根拠はない。現実の取扱として、事実上の推定をしても許されようが、反証がなされた場合にこれを否定することは許されない。

(二) 本件では、申告書別表四の①欄の記載が判明している事案であり、申告書別表五(一)の⑤欄記載の金額による事実上の推定が破られる事案であって、それにもかかわらず申告書別表五(一)の⑤欄の金額を会社更生欠損金とすることはできない。

2  本条項と法五七条一項の適用順序について

以下に述べるとおり、更生会社の税務処理に当たっては、まず本条項が適用され、次いで法五七条一項が適用されると解すべきである。

(一) 本条項の文言からの解釈

(1) 本条項は、財産評価換又は債務免除による益金は、法による所得金額の計算上、益金に算入しないと規定しており、その文言を素直に解釈すれば、右益金を、税務上非課税とする趣旨と解されるのに対し、法五七条、五八条及び五九条は、損益通算の対象となる繰越欠損金について、「……当該各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。」と規定し、あくまで欠損金の繰越について定めたものであって、文理上明らかな相違がある。所得計算上、まず益金の額が確定され、次いで損金の額が定められて所得が決定されることはいうまでもないから、論理上、まず益金を非課税とする本条項が優先的に適用され、次いで、欠損金の繰越を認める法五七条一項の規定が適用されるべきことはいうまでもない。

(2) 本条項は、括弧書きで、非課税となる益金を定める限度となる欠損金額のうちから、法五七条等により繰越される欠損金額を控除しているが、この括弧書き自体は、法五七条等の適用されるものについては、本条項が適用されないことを意味するに過ぎず、どちらの規定を優先的に適用するかについてはなんら定めていないと解するのが文理上自然であり、論理的には、右(1)のように会社更生法の規定が優先適用される。このように解すれば、本条項は、欠損金額までの益金不算入を定めたものであり、法は繰越欠損金の損金算入を定めたものであって、所得控除方法に違いがあることになる。なお、この場合、本条項括弧書きの規定がなければ、評価益及び債務免除益が青色申告欠損金を含む欠損金額まで非課税とされたうえ、さらに法による青色申告欠損金の繰越も認められ、青色申告欠損金に対応する益金部分につき、更生会社が二重に税金を免れるという解釈の成り立つ可能性があるのであって、それを防ぐため右括弧書きが設けられたと考えられるのであり、このように、同条項の規定を益金不算入の規定と解釈してこそ括弧書きが必要となるというべきである。なお、仮に本条項が、繰越欠損金の損金算入を認める趣旨の規定とすれば、法と同じく繰越欠損金を控除することになるので、別途、青色申告欠損金と会社更生法との適用順序についての規定を要するものというべきである。

(二) 本条項の立法趣旨

(1) 本条項の立法趣旨は、法とは別に、更生会社に対し、税法上の特典を与えることにより、更生会社の再建を容易にして債権者らの犠牲を緩和することにあるのであって、このことは同条項全体が法に対する特例を定めていることからも明らかであるから、特別法が一般法に優先するという一般原則からしても、本条項が法五七条一項よりも優先して適用される。

(2) また、本条項が、資産評価益及び債務免除益を非課税とした趣旨について、税法上及び会社更生法上の観点から検討すると、まず税法上は、「……益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。」(法二二条二項)とされているところ、資産評価益は、右規定からしてもそもそも取引に係るものでないから益金の対象とならない(法二五条一項)ことが明らかであるし、債務免除益についても、一般的な債務免除についてはともかく、更生会社に対する一般債権者、担保権者、株主等利害関係人の権利が更生計画により一度に調整を受けるような場合、果たして税法が予定している取引によるものと言いうるか否か、疑問があり、むしろ会社更生手続による債務免除益は、取引によらない一種の帳簿上の利益と解される。次に、会社更生法の観点からみると、会社更生法に基づく会社更生手続は、会社の再建を目的として、会社の維持存続を前提として利害関係人の権利の調整を行う観念的清算手続であり、更生会社は、更生手続開始の時点で、管財人による資産の評価換えを強制されているが(会社更生法一七七条一項)、これは会社の事業継続を前提として、更生手続に参加する利害関係人の権利範囲を明確にし、権利分配を定める意義があり、これによって生じる資産評価益は必ずしも更生会社の利益とばかりはいえないし、会社更生手続により生じる債務免除益は、具体的取引により生ずるものではなく、会社更生法二四一条により更生計画の認可によって当然生じるものであって、まさに観念的清算手続による利害関係人の権利の一律的調整の結果として生ずるものというべく、更生会社に個別的利益を対価として発生させるものではない。このような会社更生手続における評価益及び債務免除益の本質と、その立法趣旨が前記(1)のように更生会社の再建を容易にして債権者らの犠牲を緩和するという点にあることを考えると、本条項は、法の特例として評価益及び債務免除益について、他の一般会社とのバランスをも考慮し、過年度の欠損金額の限度内でのみ非課税とすることを認めたものであり、法二二条二項にいう「別段の定め」に当たると解される。

(3) 被告主張のように、先に法による欠損金の繰越控除を行い、次に会社更生法による繰越控除を行うこととすれば、実際上会社更生法の適用される余地がほとんどなくなることが明らかであり、これは本条項及び法五七条の立法趣旨に照らし不合理である。すなわち、本条項が更生会社に対して特典を与える趣旨のものであることは前記(1)のとおりであるところ、法五七条による青色申告欠損金の繰越控除の立法趣旨は、法人の事業年度を人為的に決めたことから、企業の成果を長期的に測定するため、ある事業年度に生じた欠損金を前後の事業年度の利益と通算することが合理的であるとの考えから、法人の所得評価上当然に認められるもので、必ずしも特典を与える趣旨ではなく、これは更生会社についても事業を継続していく以上当然に適用されるものである。

(三) 法五九条との対比について

被告は、法五九条との対比からも、まず法五七条の規定の適用がある欠損金を控除すべきであるとするが、そもそも本条項は、倒産手続の中で最も完備した会社更生手続にのみ適用されるものであるのに対し、法五九条は、任意整理の場合でも適用される場合があって、適用対象が異なるものである。また、本条項で問題となる評価益及び債務免除益は、裁判所の関与するものであり、かつ一般的な債権者等の犠牲に基づくものであって、これを非課税とする目的は、債権者の犠牲によって会社の再建を容易にすることにあるのに対し、法五九条による私財提供益や債務免除益は、当該会社の役員又は株主の関わるものに限られることから、むしろ会社経営に密接な関係を有するものが債権者らのために容易にその会社破綻の責任を取り得るようにするための政策的規定であると解され、その立法目的に違いがある。しかも、文言上も、本条項は、益金不算入を定めているのに対し、法五九条は欠損金の繰越を定めているに過ぎず、明らかに会社更生法の方がより徹底した会社の保護を図っている。これらの両法条の適用対象、立法目的等から考えれば、本条項の場合の方が、法五九条の場合に比べて会社の再建過程における負担軽減を重視すべき場合であり、かつ裁判所の関与する適正なもので弊害は少ない場合であるから、法五九条に基づき、本条項を類推解釈することはできない。しかも、本条項に法五九条のような定めがない以上、文言から離れて実質上納税者の不利益になる解釈を行うべきでないことは明らかである。

3  以上によれば、原告の昭和五七年九月期以降の各期の差引所得金額(または欠損金額)及び翌期へ繰越す欠損金額残高は、別表八記載のとおりであり、これに反する本件各処分は違法である。

第三  証拠〈省略〉

理由

一被告の本案前の主張について

被告は、本件二次処分の取消を求める訴えは、審査請求手続を経由せず提起されたものであるから不適法である旨主張するので、以下、この点につき検討する。

1  請求原因2の(一)、(二)の(1)、(2)(本件一次処分及び本件二次処分の経緯)及び被告の主張1(本件各処分に至る経緯)の事実は当事者間に争いがない。

2  右当事者間に争いがない事実に加え、〈証拠〉を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  本件一次処分の経緯

(1) 本件第一処分の経緯

① 原告は、昭和五七年九月期の申告において、経常利益が一三億三七三八万一九二五円、本件債務免除益六二三億五一三六万四四二円を含む特別利益が六二五億四八六六万三二二円、特別損失が二二九万一〇〇五円であり、これらの当期利益六三八億八三七五万一二四二円に、法に基づく税務調整(益金・損金の加算・減算であり、以下「税務調整」という。)をした繰越欠損金控除前の所得金額が六二七億九三七〇万四四四九円であるとし、そのうち四二五億八九五四万六二九三円を青色申告欠損金の当期控除額、二〇二億四一五万八一五六円を会社更生欠損金の当期控除額としてそれぞれ損金に算入し、その合計六二七億九三七〇万四四四九円を当期における欠損金として控除し、その余の一七三億六五三四万八一〇二円を翌期に繰越す欠損金とする申告をした。

② これに対し、被告は、昭和六〇年一二月二五日、別表六の「更正の内容」中の「加算金額」、「減算金額」欄(以下「税務調整欄」という。)の「昭和五七年九月期」欄記載のとおり、申告額より一億六九六八万六八三〇円損金を否認する税務調整をして、繰越欠損金控除前の所得金額を六二九億六三三九万一二七九円として、また、右のうち五九九億五四八九万四三九五円を青色申告欠損金の当期控除額とし、その余の三〇億八四九万六八八四円を会社更生欠損金の当期控除額としてそれぞれ損金に算入し、結局、法五七条一項により翌期に繰越すべき欠損金は認められないので、翌期繰越損金を〇円とするとの更正処分(本件第一処分)をした。

(2) 本件第二処分の経緯

① 原告は、昭和五八年三月期の申告において、当期利益に税務調整をした繰越欠損金控除前の所得金額がマイナス一〇九六万一四一八円であるとし、それを前記(1)の①の税務欠損金額に加算して、翌期繰越欠損金を一七三億七六三〇万九五二〇円とする申告をした。

② それに対し、被告は、昭和六〇年一二月二五日、別表六の税務調整欄の「昭和五八年三月期」欄記載のとおり、申告額より四九一万七二八六円損金を認容する税務調整をして、繰越欠損金控除前の所得金額をマイナス一五八七万八七〇四円として、翌期繰越欠損金を右一五八七万八七〇四円とする更正処分(本件第二処分)をした。

(3) 本件一次処分についての不服申立の経緯

① 原告は、本件第一処分については昭和六一年二月二〇日、本件第二処分については同月二四日、いずれも大阪国税局長に対し、異議申立をしたが、同局長は、同年五月八日、いずれも異議棄却の決定をしたので、原告は同年六月六日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同所長は、昭和六二年六月一六日、審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、右裁決書は、同年七月二日、原告に送達された。

② 原告の異議申立及び審査請求の理由は、昭和五七年九月期における繰越欠損金控除前の所得金額は、更正処分(本件第一処分)のとおりであることを認めた上で、(イ)会社更生法の規定が適用される評価益・債務免除益(以下「評価益等」という。)の発生事業年度の所得金額の計算は、まず会社更生欠損金をそれに充当し、次いで青色申告欠損金を控除すべきであること、(ロ)会社更生欠損金の額は、申告書別表五(一)の(5)欄記載の欠損金額ではなく、申告書別表四の①欄記載の欠損金額の累積額であることの二点であり、それによれば翌期繰越欠損金は一七一億九五六六万一二七二円(申告額と異なるのは、繰越欠損金額控除前の所得金額につき、更正処分に従い、一億六九六八万六八三〇円税務調整により損金を減算したことによる。)となるのに、それを〇円とした右処分は不当であるというものであり、また、昭和五八年三月期についても、当期における繰越欠損金控除前の所得金額が、更正処分(本件第二処分)のとおりであることを認めた上で、昭和五七年九月期から繰越されるべき右欠損金を損金に算入すべきであるから、それによって翌期繰越欠損金は一七二億一一五三万九九七六円となるのに、それを〇円とした右処分は不当であるというものである。

③ なお、右②の(イ)の点については、基本通達一四―三―一の六で、青色申告欠損金の控除を先にすべきであるとされ、右(ロ)の点についても、基本通達一四―三―一の五で、申告書別表五(一)の⑤欄の金額を指すとされており、基本通達に依拠して法解釈を行う以上は、異議決定及び裁決のような結論にならざるを得ないものであり、右と異なみ処分をするとすれば、実務的には、通達の変更を迫られることになる。

(二)  本件二次処分の経緯

(1) 本件第三処分の経緯

① 原告は、昭和五九年三月期の申告において、当期利益に税務調整をした繰越欠損金控除前の所得金額がマイナス一〇億七一二万五五〇五円であるとし、それを前記(一)の(2)の①の昭和五八年三月期の繰越欠損金額に加算して、翌期繰越欠損金を一八三億八三四三万五〇二五円とする申告をした。

② それに対し、被告は、昭和六二年三月三一日、別表六の税務調整欄の「昭和五九年三月期」欄記載のとおり、申告額より九〇一三万一三五円損金を否認する税務調整をして、繰越欠損金控除前の所得金額をマイナス九億一六九九万五三七〇円とし、翌期繰越欠損金を、右金額と本件第二処分に係る昭和五八年三月期の翌期繰越欠損金一五八七万八七〇四円を合計した額の九億三二八七万四〇七四円とする更正処分(本件第三処分)をした。

(2) 本件第四処分の経緯

① 原告は、昭和六〇年三月期の申告において、当期利益に税務調整をした繰越欠損金控除前の所得金額をマイナス三億一六四〇万一九五九円であるとし、それを前記(1)の①の昭和五九年三月期の繰越欠損金額に加算して、翌期繰越欠損金を一八六億九九八三万六九八四円とする申告をした。

② それに対し、被告は、昭和六二年三月三一日、別表六の税務調整欄の「昭和六〇年三月期」欄記載のとおり、申告額より三〇四八万八三三七円損金を否認する税務調整をして、繰越欠損金控除前の所得金額をマイナス二億八五九一万三六二二円とし、翌期繰越欠損金を、右金額と本件第三処分に係る昭和五九年三月期の翌期繰越欠損金九億三二八七万四〇七四円を合計した額の一二億一八七八万七六九六円とする更正処分(本件第四処分)をした。

(3) 本件第五処分の経緯

① 原告は、昭和六年三月期の申告において、当期利益に税務調整をした繰越欠損金控除前の所得金額が四二億三九三一万四七一〇円であるとし、それを前記(2)の①の昭和六〇年三月期の繰越欠損金額に加算して、翌期繰越欠損金を一四二億九五七五万二七三〇円とする申告をした。

② それに対し、被告は、昭和六二年三月三一日、別表六の税務調整欄の「昭和六一年三月期」欄記載のとおり、申告額より一一七二万五五〇円損金を認容する税務調整をして、繰越欠損金控除前の所得金額を四二億二七五九万四一六〇円とし、右所得金額が、本件第四処分に係る昭和六〇年三月期の翌期繰越欠損金一二億一一七八万七六九六円を超えることから、翌期繰越欠損金を〇円とし、また、右繰越欠損金を超える所得金額三〇億八八〇万六四六四円について、税額調整後の法人税九億二五七〇万二五〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税九二五四万五〇〇〇円の賦課決定処分(本件第五処分)をした。

(4) 本件二次処分についての不服申立の経緯

① 原告は、昭和六二年五月一五日、大阪国税局長に対し、本件二次処分(本件第三ないし第五処分)について異議申立をしたが、同局長は、同年七月二八日、いずれも異議棄却の決定をした。原告は、さらに審査請求手続をとることなく、同年九月三〇日、本件訴えを提起した。

② 原告の前記異議申立の理由は、本件第三ないし第五処分とも、各事業年度における繰越欠損金控除前の所得金額は、更正処分のとおりであることを認めた上で、前記(一)の(3)の②の昭和五七年九月期から繰越されるべき欠損金一七一億九五六六万一二七二円を各事業年度の損金に算入すべきであるというものであり、その余の税務調整の更正処分については争っていない。

③ これに対する異議決定は、本件一次処分同様、会社更生欠損金と青色申告欠損金とでは、青色申告欠損金が先に控除されるべきであるとし、本件一次処分の前提の上に立って各事業年度の欠損金を算定し、原告の異議申立はいずれも理由がないとしたものであり、右異議決定の際も、原処分としては、前記(一)の(3)の③の各通達に沿う解釈を維持することを明らかにしている。

(三)  本訴の内容等

(1) 前記(一)、(二)のように、本件各処分は、税務調整に関する処分(以下「税務調整更正」という。)と、昭和五七年九月期の欠損金控除に関する処分及びそれに基づく次年度以降の繰越欠損金の計上に関する処分(以下「繰越欠損金更正」という。)とから成るが、原告が本訴において争っているのは、繰越欠損金更正のみであり、税務調整更正については、不服申立手続におけると同様、本訴においても争う意思は全く窺われない。また、原告が本訴において取消を求める繰越欠損金更正の内容は、昭和五七年九月期の翌期繰越欠損金(前記(一)の(3)の②の一七一億九五六六万一二七二円)が、係争各事業年度に繰越されるか否かの点であり、それに尽きる。

(2) したがって、本訴における争点は、結局、(イ)会社更生欠損金の額は、申告書別表五(一)の⑤欄の金額か、申告書別表四の①欄の金額の累積額か(及び別表四の①欄の金額の正確な累積額を知りえない場合に、別表五(一)の⑤欄記載の金額とすることができるか)、(ロ)更生会社における評価益等の発生事業年度の所得の計算は、会社更生欠損金の益金への充当あるいは右欠損金の控除を先にすべきか、青色申告欠損金の控除を先にすべきかという、いずれも法解釈上の二つの問題点に絞られる。

3  そこで、右2認定の事実を基に、本件二次処分について審査請求を経ないことが国税通則法一一五条一項三号にいう正当な理由があるといえるか否かについて判断するに、そもそも行政処分の取消訴訟を提起するにつき、不服申立前置が要求されるのは、主として、司法審査に先立ち、行政庁あるいはその設置する第三者機関(以下「行政庁等」という。)に、当該行政処分につき、反省、見直しの機会を与えることにより、紛争の自主的解決を図る(それが行政庁の地位の尊重につながるとともに、それによって行政手続の専門性、技術性を生かした迅速、的確な紛争解決を期待することができる。)ことにあると解されるのであるから、二つ以上の処分がある場合に、一つの処分についてのみ不服申立をし、他の処分について不服申立をしないことが、同条にいう正当な理由に当たるとして許容されるためには、司法審査に先立ち、不服申立手続を経由させることにつき合理的な理由がない場合、すなわち、(イ)各処分が実質的に同一である場合とか、あるいは(ロ)一つの処分について不服申立をした以上の他の処分について不服申立をしても、もはや行政庁等の対応が変わる余地がなく、紛争の自主的解決を期待しえないような場合であることが必要であり、右(ロ)を具体的にいえば、各処分が処分の理由を共通にし、不服申立において攻撃する点ももっぱら共通の処分理由に対するものであり、かつそれに対する行政庁等の基本的な判断が一つの処分に対する不服申立手続において既に示されていて変更の余地がないような場合であることが必要であると解される。

そこで、以下、このような観点から、本件二次処分について審査請求を経由しないことにつき正当な理由があるといえるか否かについて検討する。

(一)  本件各処分中、繰越欠損金更正は、ある年度の繰越欠損金の額が決定されれば、その認定額が、法に規定する範囲内で、連続する次年度以降に繰越されてその年度の繰越欠損金に機械的に加算され、ある年度の繰越欠損金の認定処分を変更すれば、法の定める範囲内で、次年度以降の繰越欠損金の確定額の変更を法律上余儀なくされるという関係に立つのであるから、各年度の繰越欠損金更正は、一般的にみても相互に密接な関連性を有するのみならず、本件各処分で問題となった繰越欠損金更正は、(イ)昭和五九年九月期の会社更生欠損金の額はいくらか(会社更生欠損金の算定に当たっては、申告書別表五(一)の⑤欄の金額によるべきか、申告書別表四の①欄の金額の累積額によるべきか、また、右別表四の①欄の金額の正確な累積額を知りえない場合に、申告書別表五(一)の⑤欄記載の金額をもって会社更生欠損金の額とみなすことが合理性を持つか)、(ロ)昭和五七年九月期の繰越欠損金控除前の所得金額(そのほとんどは本件債務免除益)のうち、いくらを翌期繰越欠損金に計上するか(本件では、会社更生欠損金の益金への充当あるいは欠損金控除と青色申告欠損金の控除のいずれを先に行うかによって、翌期繰越欠損金の有無が異なる。)という点(以下「本件各争点」という。)に起因し、かつそれに尽きるのであるから、その関連性は極めて強いといわなければならない。

(二)  原告は、本件一次処分及び本件二次処分を通じ、不服申立手続でも、本訴においても、昭和五七年九月期における繰越欠損金更正の当否、すなわち本件各争点のみを不服申立理由とし、また本訴の争点としているのであって、その攻撃対象は、共通の処分理由に尽きるものである。なお、原告は、本件第五処分については、繰越欠損金更正の取消のみならず、法人税及び過少申告加算税の賦課決定処分の取消も求めているが、その理由も、右各賦課決定処分の基礎となった所得金額の算定が、原告の主張によれば、昭和五七年九月期から継続して繰越されることとなる欠損金を控除せずなされたという点に尽きるのであって、本件各争点と別個の争点があるわけではない。

(三)  また、本件各争点は、いずれも国税庁長官の発した基本通達の是非をめぐる法解釈上の問題であり、実務的には右通達が変更されない限り、原告の不服申立が認容される見通しはなく、国税不服審判所長において、基本通達に反する解釈をする場合には、国税通則法九九条の定めるところに従い、国税庁長官の指示を仰ぐことが要請されるが、本件一次処分についての異議決定及び裁決においては、右通達の解釈が維持されているし、また、本件二次処分についての異議決定においても、右通達に基づく解釈がとられており、その後も本件各争点に関する行政庁の対応に特に変化は窺われないこと等からすれば、本件二次処分についての審査請求をしても、現時点では、その裁決において、右通達に反する解釈がなされ、原告の請求が認容される見通しはほとんどないと考えられる。

(四)  このようにみてくると、本件一次処分と本件二次処分は、実質的にみて同一の処分であるとはいえないものの、相互に極めて密接に関連しているのみならず、その処分理由を共通にし、原告が、不服申立及び本訴において攻撃の対象とする点も本件各争点についての処分理由のみであり、これに対する行政庁及び国税不服審判所長の判断も既に示されていて、現時点ではそれが変更される見通しはほとんどないのであるから、これらに原告が、本件二次処分についても異議申立手続を経由し、行政庁に処分の反省、見直しの一応の機会を与えていることをも考慮すれば、本件では、本件二次処分について審査請求手続の経由を要求することにつき合理的な理由がない場合に当たり、右不服申立手続を経ないことが、国税通則法一一五条項三号にいう「正当な理由」がある場合に当たるというべきである。

4(一)  もっとも、前記2の(三)認定のように、本件各処分は、税務調整更正と繰越欠損金更正とから成るところ、本件各処分中の税務調整更正は、係争各事業年度ごとにそれぞれ別個のものであるから、その面に着目すれば、必ずしも本件各処分が処分の理由を共通にするとはいえないこと、また、審査請求においては、行政訴訟の場合と同様に、処分の違法性一般が不服申立の対象となるのであるから、原告が、本件二次処分についての違法事由として、本件各争点に関するもののみを主張したからといって、直ちに争点がそれに絞られるわけではなく、理論的には税務調整更正の適否も審査の対象となり、それに対する裁決も、税務調整更正の面では、本件一次処分とは結論を異にする可能性も考えられること等からすれば、本件二次処分について、司法審査に先立ち、不服申立手続を経由させることにつき合理的な理由があるとみる余地がないではない。

(二)  しかしながら、本件において、原告は、当初から、税務調整更正については、申告の誤りを認め、それに従う意思を明らかにし、本件一次処分についての異議申立、審査請求及び本件二次処分についての異議申立において、その点は全く主張していないのみならず、繰越欠損金更正についての右不服申立をするにつき、むしろ税務調整更正を前提とした金額を主張していること、このような事実経過に照らせば、理論的には、審査請求において、審理の対象が処分の違法性一般に及びうる可能性があるにしても、実際的には、審査請求手続における不服申立理由は、本件各争点に限局されることが明らかであり、本件二次処分中の税務調整更正について裁決が変更される可能性は実際上ほとんど考えられないこと、また、視点を変えて考えても、行政処分について不服申立前置が要求される趣旨は、司法審査に先立って行政庁に当該行政処分につき反省、見直しの機会を与えるという点にあるところ、原告は、本訴において、本件二次処分を含む本件各処分中の税務調整更正については、全く司法審査の対象とする意思がなく、現実にも、それについての違法事由は主張せず、むしろ右更正にかかる所得金額を前提とした主張をしており、それに対する被告の応訴態度等をも考えれば、理論的には、税務調整更正の違法性も訴訟における審理の対象となるとはいえ、実際的には、その点が現実の訴訟における争点となり、実質的司法審査の対象となる可能性は極めて乏しいこと等に加え、本件では税務調整更正を含む本件二次処分についても、司法審査に先立ち、異議申立手続を経由しており、行政庁に右更正処分の一応の見直しの機会を与えていることをも総合考慮すれば、右(一)の点も、未だ本件二次処分について裁決を経ないことが国税通則法一一五条一項三号にいう「正当な理由」がある場合に当たるとの前記判断を動かすに足る事情とは認めがたい。

二そこで、以下、本件各処分の適否について判断する。

1  原告は、昭和二一年七月に設立された会社であるところ、昭和五三年二月二〇日、大阪地方裁判所に対し、会社更生手続開始の申立を行い、同年五月一日、更生手続開始決定を受け、昭和五七年九月三〇日、更生計画が認可されたことは当事者間に争いがない、また、弁論の全趣旨によれば、原告の事業年度は、右更生手続開始決定前、毎期一月一日から一二月三一日までであったところ、会社更生法二六九条二項により、右開始決定を受けて、昭和五三年の事業年度は、同年四月三〇日に終了し(以下「この事業年度を「更生手続開始直前事業年度」という。)、以後、毎期五月一日から四月三〇日までの事業年度を継続していたが、同条項により、右更生計画の認可を受けて、昭和五七年の事業年度は九月三〇日に終了した(昭和五七年九月期)ことが認められる。

2  本件第一処分について

(一) 原告の昭和五七年九月期の申告内容及びそれに対する被告の本件第一処分の内容は、前記一の2の(一)の(1)のとおりであり、また、同期における本件債務免除益が六二三億五一三六万四四二円であって、右債務免除益を含む原告の同期における繰越欠損金控除前の所得金額が六二九億六三三九万一二七九円であること、同期における法五七条一項により損金の額に算入しうる右事業年度開始の日前五年以内に開始した事業年度において生じた欠損金(青色申告欠損金)の額が、別表七記載のとおり、五九九億五四八九万四三九五円であることは、いずれも当事者間に争いがなく、これによれば、本件における開始前青色申告欠損金は、同表の昭和五三年四月期の欄記載の一九八億四五八一万四五五一円であり、開始後青色申告欠損金は、同表の昭和五四年四月期、昭和五六年四月期及び昭和五七年四月期の各欄記載の金額合計である四〇一億九〇七万九八四四円であることが明らかである。

(二)  昭和五七年九月期における累積繰越欠損金及び会社更生欠損金の額について

(1) 本条項は、「更生手続による会社の……債務の消滅による益金で、更生手続開始前から繰越されている法二条二〇号に規定する欠損金額(同法五七条一項《青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し》……の適用を受けるものを除く。)に達するまでの金額は、……債務の消滅のあった各事業年度の同法による所得の金額の計算上益金の額に算入しない。」と規定しているところ、右規定における「法二条二〇号に規定する欠損金額」とは、「当該事業年度の損金の額が当該事業年度の益金の額をこえる場合におけるそのこえる部分の金額」であるから、それは申告書別表四の①欄記載の欠損金額(当該期における欠損金額)であり、したがって、本条項にいう「更生手続開始前から繰越されている」欠損金額(累積繰越欠損金の額)とは、各事業年度の別表四の①欄記載の欠損金額で、会社の設立一期から更生手続開始直前事業年度までに繰越されている金額の累積額をいい、また、ある事業年度に繰越された欠損金があっても、同時に積立金その他の内部留保がある場合には、それを欠損の金額と通算した、実質的なマイナスの金額をいうことが明らかである。

(2) ところで、基本通達一四―三―一の五は、累積繰越欠損金の額は、「更生手続開始決定の時に終了する事業年度の確定申告書に添付する法人税申告書別表五(一)「利益積立金額の計算に関する明細書」に翌期首現在利益積立金額の合計額として記載されるべき金額で、当該金額が負(マイナス)である場合の当該金額による」とし、更生手続開始直前事業年度の申告書別表五(一)の⑤欄に記載されるべき欠損金額をもって、累積繰越欠損金の額と事実上推定することとしているが、これは、すべての場合に、会社設立一期から更生手続開始直前事業年度までの欠損金額及びそのうち繰越されている部分の金額を確定することは事実上困難であり、この場合に、累積繰越金額に最も近い金額を認定しようとすれば、申告書別表五(一)の⑤欄記載の金額によるしかないうえ、同欄記載の金額は、前記積立金等の内部留保を通算したのちの金額であり、右金額を基準とすることが、むしろ本条項の趣旨に沿うという面もあること、また、同欄記載の金額は、申告書別表四の①欄記載の各期の利益金額(所得金額)の中から、税務調整上は、各期の益金とされるものの、実質的にみて企業収益を構成しない、いわゆる社外流出分等を除いた金額であり、法二三条による受取配当等の益金不算入、法二六条による還付金等の益金不算入等の規定により、逆に各期の利益金額(所得金額)を算定する上では、益金に算入されないものの、申告書別表五(一)の⑤欄の金額算定上は加算される金額もあるものの、全体としてみると、同欄記載の金額は、概ね申告書別表四の①欄記載の金額の累積額より少なくなる(利益が減少する)のが通常であり、したがって申告書別表五(一)の⑤欄記載の金額をもって、累積繰越欠損金の額とすることは、一般的にみて、納税者にとって不利益とはならないこと等の理由によるものと認められ、とすれば、右基本通達は、本条項の合理的、実効的な運用を期するという正当な目的に出たものであり、その解釈も本条項の越旨、目的に適合するというべく、会社設立一期から、更生手続開始直前事業年度までの、申告書別表四の①欄の記載の金額の累積(欠損)額が正確に算定できる場合はともかく、それを算定しえない以上は、右基本通達に従い、更生手続開始直前事業年度における申告書別表五(一)の⑤欄記載の金額をもって、累積繰越欠損金の額と事実上推定するほかないと考えられる。

(3) 本件についてこれをみるに、原告は、昭和五一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以上「昭和五一年一二月期」という。)以降の各期の別表四の①欄記載の利益(所得)金額を主張するのみであるところ、弁論の全趣旨によれば、原告会社では、会社設立一期(昭和二一年)から右昭和五一年の事業年度までの申告書は既に廃棄済みであり、もはや、右期間中の申告書別表四の①欄記載の金額を知りえないことが明らかであるから、本件においては、前記基本通達に従い、更生手続開始直前事業年度(昭和五三年四月期)の申告書別表五(一)の⑤欄記載の金額をもって、本件における累積繰越欠損金(本件累積繰越欠損金)の額とせざるを得ない。もっとも、弁論の全趣旨によれば、本件で、右昭和五三年四月期の申告書は、保存期間満了により廃棄され、右申告書の別表五(一)の⑤欄を直接知ることはできないことが認められるが、申告書別表五(一)の⑤欄は、翌期の申告書別表五(一)の①欄にそのまま書き移すものであるから、昭和五三年四月期の申告書別表五(一)の⑤欄は、その翌期である昭和五四年四月期の申告書別表五(一)の①欄に等しいこととなるところ、成立に争いのない乙第三号証の一、二によれば、原告の昭和五四年四月期の申告書別表五(一)の①欄記載の金額(期首現在利益積立金額)は、マイナス三三五億一五七七万六〇七八円であることが認められるから、本件累積繰越欠損金の額は、右三三五億一五七七万六〇七八円となる。

(4) なお、原告は、本件累積繰越欠損金の額として、昭和五一年一二月期、昭和五二年一月一日から同年一二月三一日まで及び昭和五三年四月期までの事業年度における申告書別表四の①欄記載の各期の所得金額(いずれも欠損)の合計額を主張するが、原告は、昭和二一年に設立された会社であることは前記1のとおりであり、そのように長期間にわたって存続してきた会社の、会社更生手続開始前わずか三期分の利益・欠損状況を明らかにしても、累積繰越欠損金の正確な額を明らかにしたといえないことはもちろん、それによって算定された金額が、前記基本通達による事実上の推定を覆すに足るものともいえない(会社の収支が、短期的には欠損が続いたとしても、長期的には収支が相償うことがあることはいうまでもないし、まして、本件で原告が主張しているのは、会社更生手続開始前三期分という、一般的にみて会社の業績が最も悪化しつつある時期のみであり、そのような事業年度のみの所得(欠損)金額を累積しても、会社更生欠損金の正確な金額と程遠いことは明らかである。)のであるから、右主張は理由がない。

(5) したがって、昭和五七年九月期における会社更生欠損金の額は、前記(3)の三三五億一五七七万六〇七八円から、前記(一)の開始前青色申告欠損金一九八億四五八一万四五五一円を差引いた一三六億六九九六万一五二七円となる。

(三)  青色申告欠損金と会社更生欠損金との繰越控除の順序について

被告は、本条項が適用される評価益等の発生事業年度の所得の計算について、更生会社の累積繰越欠損金が、(イ)更生手続開始前に発生した青色申告欠損金と、(ロ)更生手続開始後に発生した青色申告欠損金と、(ハ)それ以外の欠損金(会社更生欠損金)とから構成されている場合における控除の順序は、(イ)、(ロ)、(ハ)の順であり、まず青色申告欠損金が控除されるべきであるとするのに対し、原告は、まず本条項により会社更生欠損金が益金不算入とされ、次いで青色申告欠損金の控除が行われるべきであるとし、実質的にみて、(ハ)、(イ)、(ロ)の順の控除を主張するので、以下、この点につき検討する。

(1) 本条項の趣旨

① 本条項は、「更生手続による会社の財産の評価換及び債務の消滅による益金で、更生手続開始前から繰越されている法二条二〇号に規定する欠損金額(法五七条一項又は五八条一項の規定の適用を受けるものを除く。)に達するまでの金額は、当該財産の評価換又は債務の消滅のあった各事業年度の法による所得の金額の計算上益金の額に算入しない。」と定めているところ、その趣旨は、更生手続が開始されると、公正な更生計画を作成するため、管財人により会社の財産の価額の評定が行われる(会社更生法一七七条)ほか、更生計画においては、更生債権や更生担保権の減免が行われていることが多く、更生計画認可決定により、その内容どおりの債権の免除を受けたり(同法二四二条)、届出がなされなかったために失権する債権も生じ(同法二四一条)、これらは更生会社の益金として計上されることになるが、このような評価益や債務免除益を、税法上、所得の計算において実質的に益金に算入することは、更生会社に対し、酷であるうえ、債権者の犠牲において課税がなされることになり、ひいては更生計画の遂行にも支障が生ずることから、その部分を課税の対象から除外することとしたものであること、しかし、その全額を課税の対象から除外することは一般の場合と著しい不均衡を生ずること等から、更生手続開始前から繰越されている欠損を填補する限度内で、これを認めることとしたものと解される。

② 右のような本条項の立法趣旨と、本条項は、更生手続開始前から繰越されている欠損金につき、所得の金額の計算上「益金の額に算入しない」と規定しており、その文言を素直に解釈すれば、本条項は、更生会社の評価益等のうち、累積繰越欠損金に達するまでの金額を、法に基づく所得金額の計算上、益金の額に算入しない旨を定めたものと解されること、また、右評価益等は、本質的には更生会社の利益であることは否定できないにしても、評価益は、管財人や債権者等利害関係人が手続開始の時点における正確な会社の財産状態を把握するとともに、更生担保権の範囲を画するために会社更生法によって評価換が義務付けられ、その結果として生ずるものであり、必ずしも更生会社に利益を生じさせることを目的とするものではないこと、また、債務免除益も、具体的取引により生ずるものではなく、会社更生法二四二条、二四一条により、更生計画の認可によって当然生じるものであって、観念的清算手続による利害関係人の権利の一律的調整の結果として生じるものであり、その時点で直ちに更生会社に個別的利益を対価として発生されるものではないこと等からすれば、本条項は、会社更生手続において発生する評価益及び債務免除益を、法による所得計算上、益金に算入しないとすることによって、それを非課税とする趣旨の規定と解するのが相当である。

③ 本条項の趣旨を右のように解するとすれば、更生会社の累積繰越欠損金が、(イ)更生手続開始前に発生した青色申告欠損金と、(ロ)更生手続開始後に発生した青色申告欠損金と、(ハ)それ以外の欠損金(会社更生欠損金)とから構成されている場合に、一定額の評価益等が生じた場合には、まず、右評価益の中から(ハ)の会社更生欠損金の額に達するまでの金額を除外(益金不算入)して、所得金額を算出し、次いでそこから、(イ)、(ロ)の青色申告欠損金を控除すべきであると考えられる。

(2) 青色申告欠損金控除等との関係

① もっとも、本条項は、その適用の実際上の結果としては、法に基づく所得金額の計算上、会社更生欠損金の繰越控除を認めることに帰するものであるところ、法は、同趣旨の制度として、青色申告欠損金の繰越控除(法五七条)や、破産、和議等の場合の債務免除益についての欠損金控除(法五九条)等の規定を設けており、本条項の解釈に当たっては、本条項自体の趣旨、文言のみならず、これら法の定める諸規定との均衡、整合性をも考慮に入れる必要がある(なお、本条項は、必ずしも右青色申告欠損金の繰越控除等との関係を念頭に置いて立法されたものではなく、その文言自体からも、これら法の定める諸規定との関係が必ずしも一義的に明らかであるとはいえない。)と考えられるので、以下、この点につきさらに検討する。

② 法五七条一項は、法人の各事業年度開始の日前五年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合には、その欠損金額に相当する金額は、その各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入される旨を定めているところ、右規定の趣旨は、継続を予定する企業においては、必ずしも人為的に決められた事業年度にとらわれることなく、その収益を長期かつ継続的に把握することとし、ある事業年度に欠損金が生じたとしても、それを前後の事業年度の利益と通算した方が、企業収益の正確な測定となり、税負担の不合理を避けられるという点にあると解される。このような同条の趣旨と、それが更生会社のみならず、青色申告書を提出している法人に等しく適用されるものであることからすれば、会社更生欠損金と青色申告欠損金とがある場合に、まず青色申告欠損金を優先して控除すべきであるとする合理的根拠はないのみならず、そのように解した場合、更生会社につき本条項の適用される余地が相当程度狭められ、本条項の持つ実質的意義が少なくなることは否定できない。

③ また、法五九条一項、法施行令一一七条によれば、法五九条、商法の規定による整理開始命令、破産法の規定による破産宣告、和議法の規定による和議開始決定があったこと及びこれらに準ずる事実(但し、本条項の適用にかかる事実を除く。)があった場合で、役員等からの私財提供による贈与益及び債権者からの債務免除益が生じた場合について、累積繰越欠損金額に達するまでの金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨を定めているところ、法施行令一一八条によれば、法五九条一項にいう累積欠損金額(以下「私財提供等欠損金」という。)とは、「法五七条又は五八条の規定により適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される欠損金額」を控除した金額であるとされ、私財提供等欠損金と青色申告欠損金とでは、青色申告欠損金の控除が優先する旨を定めていることが明らかであり、会社更生手続も広い意味では会社整理、和議等と同じく会社の再建、整理を図る手続であることからすれば、本条項も実質的には、法五九条と同一の趣旨、目的の規定として、青色申告欠損金の控除が優先するとみうる余地もあるように思われる。

しかしながら、本条項と法五九条とを対比すると、本条項は、評価益等を「益金の額に算入しない。」と定めるのに対し、法五九条は、贈与益等を「損金の額に算入する。」と定め、規定の文言上明確な相違があり、右明文の規定を無視して両者を全く同趣旨に解することにはやはり無理があることは否定できない。

また、その対象となる事実をみても、法五九条の場合には、商法の規定による整理開始命令、破産法の規定による破産宣告、和議法の規定による和議開始決定及びこれに準ずる事実であり、いずれも広い意味では会社あるいは個人の資産状態の悪化に伴い、その再建ないし整理を図る規定であるとはいえ、破産は、主として債権・債務の清算、資産の公平な分配を目的とする手続であり、再建型の手続である会社更生手続とは大きく異なるし、会社整理、和議は、会社更生と同じ再建型の手続ではあるものの、それらの手続と会社更生手続とを比べると、会社更生手続においては、担保権の目的物を会社の事業を継続するものとして評価し、その評価額をもって更生担保権の額としていること(会社更生法一二四条の二)、担保権の実行が禁止され、担保権者も会社更生手続に服すること(同法一二三条、六七条)、更生計画案は、少数者の反対があっても、多数決で可決することができること(同法二〇五条)などの面で、企業再建のため、より徹底して会社の保護を図っていることが明らかであり、このような手続上の相違に照らせば、同じ債務免除益であっても、右会社整理、破産、和議等の場合と会社更生の場合とで、税務上の扱いを異にしても必ずしも不合理とはいえないと考えられる。

なお、このように本条項が法五九条と税務上の扱いを異にすると解すると、一般的にみて、会社更生手続の場合、会社整理、破産、和議等の手続に比べて、欠損金の繰越が多く認められる結果となり、債務免除等の時点では、課税される機会が少なくなることはたしかであるが、しかし他方、会社更生手続は、将来、会社が再建され、再び収益力を回復することを予定する手続であり、会社整理、和議等に比べ、法律上も会社再建のための規定が整備されているうえ、実際的にも会社再建の可能性より高い手続なのであるから、長期的にみた場合、租税収入の確保という観点からすれば、必ずしも、他の手続との均衡を失するとはいえないと考えられる。

さらに、本条項と法五九条との立法の経緯をみても、まず会社更生法の制定に伴い本条項(但し、本条項は、昭和四〇年の法改正に伴い、字句の一部修正がなされているが、その基本条文には変わりがない。)が設けられ、次いで法五九条が制定された(但し、それ以前においても通達において、それと同様の運用がなされていた。)というものであり、このような立法の経緯からしても、先に制定されていた本条項を、のちに制定された法五九条の趣旨に沿って解釈すべき必然性はなく、むしろ本条項は、会社更生法独自の趣旨、目的、手続上の特性等に従って解釈して然るべきと思われる。

このようにみてくると、文言の点を除いてもやはり本条項を法五九条と並列的に解すべき合理的な理由はないといわなければならず、結局、法五九条の存在も(1)の③のような本条項の適用についての解釈を覆すに足るものではない。

(3) 会社更生手続との関係

① もっとも、前記(1)の③のような解釈を採るとすれば、(イ)法五七条による青色申告欠損金の繰越控除によって、評価益等につき課税関係が生じない場合(評価益等が青色申告欠損金を下回る場合)にも本条項が適用されることになるところ、前記(1)の①の本条項の立法趣旨、ことにそれが更生会社の評価益等についての課税を防ぎ、更生計画の円滑な遂行を図るという点にあることからすれば、このような場合には、あえて本条項を適用するまでもないようにも思われること、(ロ)また、右のような場合を含め、本条項を法五七条等に先だって適用するとすれば、更生会社が、相当多額の繰越欠損金を持ったまま、更生計画を遂行していくことになり、場合によってはその再建に支障を来たすことも全く予測されないではないこと等の事情も認められる。

② しかしながら、右(イ)の点は、それだけでは本条項と法五七条との適用関係の先後に直ちに結び付くものではなく、むしろその結果であって、問題は、結局、(ロ)の場合と同じく、更生会社が、本条項及び法五七条の適用後もなお累積繰越欠損金を残すことを本条項が予定しているか、また、更生計画遂行上、それが適当か否かという点にあると考えられるところ、会社更生法の趣旨、目的に照らせば、更生計画認可時に、欠損金が残存しているからといって直ちに右計画の円滑な遂行に支障を来たすといえないことはもちろん、更生計画認可時に残された欠損金を損金として繰越せる期間内に更生会社があげうる利益と同額の損金が残っている場合には、その利益で繰越欠損金を填補していくことにより、その利益には全く課税されないことになり、その分だけ余分に債権者への弁済に回すことが可能となり、更生会社にとって利益であることは明らかである(要は、そのような収益の見通しとのバランスに立った上で、更生計画を立案すべきであることになる。)。

③ そうすると、会社更生手続の円滑な遂行という面からしても、前記(1)の③のような本条項の解釈の合理性を否定すべき理由はない。

(4) 会社更生欠損金と青色申告欠損金控除との関係

このようにみてくると、本条項の趣旨、文言のみならず、本条項と法五七条、五九条との関係、均衡、会社更生計画の円滑な遂行という面を総合的に考慮しても、更生会社の累積欠損金に会社更生欠損金と青色申告欠損金がある場合、まず青色申告欠損金を控除すべきであるとする合理的理由はなく、前記(1)の③のように、まず更生会社の評価益・債務免除益につき、会社更生欠損金を益金に算入しないこととして益金額を算出し、それから青色申告欠損金の繰越控除を行うのが、本条項の最も適切かつ合理的な解釈であるというべきである。

(四)  昭和五七年九月期における青色申告欠損金繰越の有無

(1) 前記(一)のように、本条項及び法五七条適用前の昭和五七年九月期における原告の所得金額は六二九億六三三九万一二七九円であり、うち本件債務免除益は六二三億五一三六万四四二円であることは当事者間に争いがないので、まず右債務免除益のうち、前記(二)の(5)の会社更生欠損金の額である、一三六億六九九六万一五二七円に達するまでの金額についてはこれを益金に算入しないこととすると、同期における原告の繰越欠損金控除前の所得金額は、四九二億九三四二万九七五二円(うち本件債務免除益は四八六億八一三九万八九一五円)となり、次いで右所得金額から、前記(一)の青色申告欠損金額中、開始前青色申告欠損金である一九八億四五八一万四五五一円を差引き、次いで開始後青色申告欠損金である四〇一億九〇七万九八四四円を差引くと、同期における翌期へ繰越す青色申告欠損金額は、一〇六億六一四六万四六四三円となる。

(2) したがって、昭和五七年九月期の翌期へ繰越す青色申告欠損金の申告額一七三億六五三四万八一〇二円を〇円とした本件第一処分は、右欠損金額一〇六億六一四六万四六四三円に達するまでの部分については違法であるといわなければならない。

3  本件第二処分について

(一)  原告の昭和五八年三月期における繰越欠損金控除前の所得金額がマイナス一五八七万八七〇四円であることは当事者間に争いがないので、同期における翌期繰越欠損金額は、前記一〇六億六一四六万四六四三円に右一五八七万八七〇四円を加算した一〇六億七七三四万三三四七円となる。

(二)  したがって、昭和五八年三月期の翌期へ繰越す青色申告欠損金の申告額一七三億七六三〇万九五二〇円を一五八七万八七〇四円とした本件第二処分

別表一

(自昭和五七年五月一日至昭和五七年九月三〇日事業年度分法人税)

(単位 円)

区分

年月日

所得金額

差引所得に対

する法人税額

過少申告加算税

翌期繰越欠損金額

確定申告

五八・一・一四

一七、三六五、三四八、一〇二

更正

六〇・一二・二五

異議申立

六一・二・二〇

一七、一九五、六六一、二七二

異議決定

六一・五・八

棄却

審査請求

六一・六・六

一七、一九五、六六一、二七二

審査裁決

六二・六・一六

棄却

別表二

(自昭和五七年一〇月一日至昭和五八年三月三一日事業年度法人税)

(単位 円)

区分

年月日

所得金額

差引所得

に対する

法人税額

過少申告

加算税

翌期繰越欠損金額

確定申告

五八・六・三〇

△ 一〇、九六一、四一八

一七、三七六、三〇九、五二〇

更正

六〇・一二・二五

△ 一五、八七八、七〇四

一五、八七八、七〇四

異議申立

六一・二・二四

△ 一五、八七八、七〇四

一七、二一一、五三九、九七六

異議決定

六一・五・八

棄却

審査請求

六一・六・六

△ 一五、八七八、七〇四

一七、二一一、五三九、九七六

審査裁決

六二・六・一六

棄却

別表一

(自昭和五七年五月一日至昭和五七年九月三〇日事業年度分法人税)

(単位 円)

区分

年月日

所得金額

差引所得に対

する法人税額

過少申告加算税

翌期繰越欠損金額

確定申告

五八・一・一四

一七、三六五、三四八、一〇二

更正

六〇・一二・二五

異議申立

六一・二・二〇

一七、一九五、六六一、二七二

異議決定

六一・五・八

棄却

審査請求

六一・六・六

一七、一九五、六六一、二七二

審査裁決

六二・六・一六

棄却

(△印は欠損を示す)

別表三

(自昭和五八年四月一日至昭和五九年三月三一日事業年度分法人税)

(単位 円)

区分

年月日

所得金額

差引所得

に対する

法人税額

過少申告

加算税

翌期繰越欠損金額

確定申告

五九・六・二九

△一、〇〇七、一二五、五〇五

一八、三八三、四三五、〇二五

更正

六二・三・三一

△  九一六、九九五、三七〇

九三二、八七四、〇七四

異議申立

六二・五・一五

△  九一六、九九五、三七〇

一八、一二八、五三五、三四六

異議決定

六二・七・二八

棄却

(△印は欠損を示す)

別表四

(自昭和五九年四月一日至昭和六〇年三月三一日事業年度法人税)

(単位 円)

区分

年月日

所得金額

差引所得

に対する

法人税額

過少申告

加算税

翌期繰越欠損金額

確定申告

六〇・六・二八

△ 三一六、四〇一、

九五九

一八、六九九、八三六、

九八四

更正

六二・三・三一

△ 二八五、九一三、

六二二

一、二一八、七八七、

六九六

異議申立

六二・五・一五

△ 二八五、九一三、

六二二

一八、四一四、四四八、

九六八

異議決定

六二・七・二八

棄却

(△印は欠損を示す)

別表五

(自昭和六〇年四月一日至昭和六一年三月三一日事業年度分法人税)

(単位 円)

区分

年月日

所得金額

差引所得に

対する法人税額

過少申告

加算税

翌期繰越欠損金額

確定申告

六一・

六・三〇

一四、二九五、七五二、

七三〇

更正

六二・

三・三一

三、〇〇八、八〇六、

四六四

九二五、七〇二、

五〇〇

九二、五四五、

〇〇〇

異議申立

六二・

五・一五

一四、一八六、八五四、

八〇八

異議決定

六二・

七・二八

棄却

別表七

青色申告欠損金額

事業年度

申告欠損金額(単位 円)

自 昭和五三年一月一日

至 昭和五三年四月三〇日

一九、八四五、八一四、五五一

自 昭和五三年五月一日

至 昭和五四年四月三〇日

六、九〇〇、六三八、七五六

自 昭和五五年五月一日

至 昭和五六年四月三〇日

六、五六七、八六八、〇五二

自 昭和五六年五月一日

至 昭和五七年四月三〇日

二六、六四〇、五七三、〇三六

別表六

申告の内容

事業年度

昭和57年9月期

昭和58年3月期

昭和59年3月期

昭和60年3月期

昭和61年3月期

項目

申告所得金額

(2-4-3)

1

0

△ 10,961,418

△1,007,125,505

△ 316,401,959

0

同上の内訳

繰越欠損金控除前所得金額

2

62,793,704,449

△ 10,961,418

△1,007,125,505

△ 316,401,959

4,239,314,710

青色欠損金等該当分

3

42,589,546,293

0

0

0

4,239,314,710

会社更生法の規定適用分

4

20,204,158,156

0

0

0

0

翌期へ繰り越す欠損金

5

17,365,348,102

17,376,309,520

18,383,435,025

18,699,836,984

14,295,752,730

更正の内容

加算金額

株主補償損失引当金の損金算入否認

6

232,295,259

租税公課否認

7

71,326,340

68,299,000

69,502,460

貯蔵品の計上漏れ

8

985,000

修繕費否認

9

2,720,000

1,750,000

1,270,000

減価償却超過額否認

10

16,395,280

14,015,527

9,983,166

債権償却特別勘定繰入額否認

11

21,694,747

広告宣伝費否認

12

2,505,000

福利厚生費否認

13

4,590,000

加算金額計

(6~13)

14

232,295,259

0

91,426,620

105,759,274

87,850,626

減算金額

抱き合わせ株式の消却差益の

過大計上額認容

15

62,608,429

退職給与引当金戻入益の認容

16

4,917,286

固定資産の除却損認容

17

1,296,485

273,468

463,091

減価償却超過額の損金算入認容

18

3,645,408

5,949,737

法人税額から控除される所得税額の損金不算入額の過大額認容

19

25,721

715,113

租税公課認容

20

71,326,340

68,299,000

法人税額から控除される外国税額の損金不算入額の過大額認容

21

24,144,235

減算金額計

(15-21)

22

62,608,429

4,917,286

1,296,485

75,270,937

99,571,176

所得金額

(24-25-26)

23

0

△ 15,878,704

△ 916,995,370

△ 285,913,622

3,008,806,464

同上の内訳

繰越欠損金控除前所得金額

24

62,963,391,279

△ 15,878,704

△ 916,995,370

△ 285,913,622

4,227,594,160

青色欠損金等該当分

25

59,954,894,395

0

0

0

1,218,787,696

会社更生法の規定適用分

26

3,008,496,884

0

0

0

0

翌期へ繰り越す欠損金

27

0

15,878,704

932,874,074

1,218,787,696

0

(単位 円)(△印は欠損を示す)

は、右欠損金額中、一五八七万八七〇四円を超え、一〇六億七七三四万三三四七円に達するまでの部分は違法であるといわなければならない。

4  本件第三処分について

(一)  原告の昭和五九年三月期における繰越欠損金控除前の所得金額がマイナス九億一六九九万五三七〇円であることは当事者間に争いがないので、同期における翌期繰越欠損金額は、前記一〇六億七七三四万三三四七円に右九億一六九九万五三七〇円を加算した一一五億九四三三万八七一七円となる。

(二)  したがって、昭和五九年三月期の翌期へ繰越す青色申告欠損金の申告額一八三億八三四三万五〇二五円を九億三二八七万四〇七四円とした本件第三処分は、右欠損金額九億三二八七万四〇七四円を超え、一一五億九四三三万八七一七円に達するまでの部分は違法であるといわなければならない。

5  本件第四処分について

(一)  原告の昭和六〇年三月期における繰越欠損金控除前の所得金額がマイナス二億八五九一万三六二二円であることは当事者間に争いがないので、同期における翌期繰越欠損金額は、前記一一五億九四三三万八七一七円に右二億八五九一万三六二二円を加算した一一八億八〇二五万二三三九円となる。

(二)  したがって、昭和六〇年三月期の翌期へ繰越す青色申告欠損金の申告額一八六億九九八三万六九八四円を一二

別表八

事業年度

欠損金繰越控除前の所得金額又は欠損金額

--

翌期へ繰越す

欠損金額残高

更生法第269条

による益金不算入額

法人税法第57条により欠損金控除

差引所得金額

又は欠損金額

法人税法第57条適用の失権額

昭51.1.1

51.12.31

△9,465,187,111

△9,465,187,111

9,465,187,111

52.1.1

52.12.31

△10,738,971,045

△10,738,971,045

20,204,158,156

53.1.1

53.4.30

△19,845,814,551

△19,845,814,551

40,049,972,707

53.5.1

54.4.30

△6,900,638,756

△6,900,638,756

46,950,611,463

55.5.1

56.4.30

△6,567,868,052

△6,567,868,052

53,518,479,515

56.5.1

57.4.30

△26,640,573,036

△26,640,573,036

20,204,158,156

59,954,894,395

57.5.1

57.9.30

62,963,391,279

20,204,158,156

42,759,233,123

0

17,195,661,272

57.10.1

58.3.31

△ 15,878,704

△ 15,878,704

17,211,539,976

58.4.1

59.3.31

△ 916,995,370

△ 916,995,370

18,128,535,346

59.4.1

60.3.31

△ 285,913,622

△ 285,913,622

18,414,448,968

60.4.1

61.3.31

4,227,594,160

4,227,594,160

0

14,186,854,808

億一八七八万七六九六円とした本件第四処分は、右欠損金額一二億一八七八万七六九六円を超え、一一八億八〇二五万二三三九円に達するまでの部分は違法であるといわなければならない。

6  本件第五処分について

(一)  原告の昭和六一年三月期における繰越欠損金控除前の所得金額が四二億二七五九万四一六〇円であるごとは当事者間に争いがないので、同期における翌期繰越欠損金額は、前記一一八億八〇二五万二三三九円から右四二億二七五九万四一六〇円を控除した七六億五二六五万八一七九円となる。

(二)  したがって、本件第五処分中、昭和六一年三月期の翌期へ繰越す青色申告欠損金の申告額一四二億九五七五万二七三〇円を〇円とした処分は、右欠損金額七六億五二六五万八一七九円に達するまでの部分は違法であり、また、同期における法人税について所得金額〇円を三〇億八八〇万六四六四円としてなした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分はすべて違法であるといわなければならない。

三以上の次第で、本件各処分のうち、①原告の昭和五七年九月期の翌期繰越欠損金の申告額一七三億六五三四万八一〇二円を〇円とした本件第一処分中、右欠損金額一〇六億六一四六万四六四三円に達するまでの部分、②原告の昭和五八年三月期の翌期繰越欠損金の申告額一七三億七六三〇万九五二〇円を一五八七万八七〇四円とした本件第二処分中、右欠損金額一五八七万八七〇四円を超え、一〇六億七七三四万三三四七円に達するまでの部分、③原告の昭和五九年三月期の翌期繰越欠損金の申告額一八三億八三四三万五〇二五円を九億三二八七万四〇七四円とした本件第三処分中、右欠損金額九億三二八七万四〇七四円を超え、一一五億九四三三万八七一七円に達するまでの部分、④原告の昭和六〇年三月期の翌期繰越欠損金の申告額一八六億九九八三万六九八四円を一二億一八七八万七六九六円とした本件第四処分中、右欠損金額一二億一八七八万七六九六円を超え、一一八億八〇二五万二三三九円に達するまでの部分、⑤本件第五処分中、原告の昭和六一年三月期の翌期繰越欠損金の申告額一四二億九五七五万二七三〇円を〇円とした更正処分中、右欠損金額七六億五二六五万八一七九円に達するまでの部分並びに同期における法人税について所得金額を三〇億八八〇万六四六四円としてなした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分は、いずれも違法であるからこれを取消し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山本矩夫 裁判官及川憲夫 裁判官徳岡由美子)

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